業務システムの入れ替えでデータ移行が詰まる5つのこと|移行前に決めておくこと
システムを新しくするとき、打ち合わせでも見積もりでも、いちばん後回しになるのがデータ移行です。「いまのデータをそのまま移してください」の一言で済むように見えるからです。
ところが実際に始めると、ここがいちばん時間を食います。原因は技術ではありません。決まっていないことが多いからです。どのデータを移すのか、同じ人が2件あったらどちらを残すのか、辞めた人の記録はどうするのか。これらは開発会社だけでは決められません。
このページでは、名簿や受講記録のような業務データを移すときに必ず出てくる5つの詰まりどころと、それぞれ誰がいつ決めるのかを整理します。
データ移行は「コピー」ではない
旧システムから新システムへデータを移す作業は、ファイルのコピーとは違います。旧システムは旧システムの考え方で項目を持っていて、新システムは新しい考え方で項目を持っています。その間に対応表を作るのが、移行の本体です。
たとえば、旧システムでは「氏名」が1つの欄なのに、新システムでは「姓」と「名」に分かれている。旧システムに都道府県の欄がなく、住所欄にすべて入っている。区分が1から5の数字で、その意味がどこにも書かれていない。こうした食い違いを1項目ずつ埋めていきます。
- 1つの欄に複数の情報が入っている(氏名の欄に旧姓、備考欄に連絡事項)
- 選択肢の値が記号や数字で、意味の分かる資料が残っていない
- 必須のはずの項目が空のまま登録されているレコードがある
- 同じ意味の項目が2つあり、どちらが使われているのか分からない
- 運用の途中で意味が変わった項目がある(ある年度から別の用途で使い始めた)
この対応表を作るには、旧システムの項目を一つずつ見て「これは何か」を決めていく必要があります。それが分かるのは、日々そのシステムを使っている担当者です。画面を外から眺めただけでは分かりません。ExcelやAccessで作った社内システムからの移行では、作った本人がすでにいないことも少なくありません。

詰まるのは、だいたいこの5つ
業種が違っても、詰まる場所はほとんど同じです。そして5つとも、正解を知っているのは発注側です。
| 詰まりどころ | 何が起きるか | 決めるのは |
|---|---|---|
| 表記ゆれ | 同じ組織名が「株式会社」「(株)」「㈱」で混在し、集計も検索も合わない | 発注側(どれに寄せるか) |
| 重複 | 同じ人が2件登録されている。住所や連絡先だけが違う | 発注側(どちらを残すか) |
| 退会者・退職者 | もう使わない記録が大量にある。消してよいかは別の話 | 発注側(残すか、別に保管するか) |
| 添付ファイル | 証明書の画像やPDFがシステムの外にあり、どのレコードのものか分からない | 両方(現物の確認が要る) |
| 過去年度 | 何年分を移すのか。古い年度は新しい項目が埋まっていない | 発注側(何年度から判定対象にするか) |
移行にかかる作業量は、開発会社の腕よりも、発注側がこの5つをどれだけ早く決められるかで変わります。逆に言えば、ここを先に決めておくと見積もりの精度も上がります。
表記ゆれと重複は、機械だけでは終わらない
表記ゆれには、機械で寄せられるものと、寄せられないものがあります。全角と半角、前後の空白、株式会社の書き方、ハイフンの種類は、ほぼ自動で揃えられます。一方で、正式名称と略称、旧住所と新住所、改姓の前と後は、人が見て判断するしかありません。
- 機械で揃える 全角半角、前後の空白、株式会社の表記、ハイフンや長音の種類。ここは自動で片づきます。
- 候補を一覧にする 名前が似ている、メールアドレスが同じ、電話番号が同じ。重複の可能性がある組を一覧にします。
- 人が印をつける 一覧を見て、残すほうに印をつけます。ここだけは担当者の作業になります。
この3段目に入る前に決めておくことが1つあります。重複を何で判定するかです。会員番号なのか、メールアドレスなのか、氏名と生年月日の組み合わせなのか。これが決まらないと、2段目の候補一覧も作れません。会員番号が過去に振り直されていて重複している、というケースもあるので、まず旧システムの番号が一意かどうかを確かめます。
全部きれいにしてから移す、を目指さないでください。そこを目標にすると、移行がいつまでも終わりません。移行の時点で直すものと、新システムで運用しながら直していくものを分けます。たとえば重複は移行前に片づけ、住所の古さは新システムで本人に更新してもらいながら直す、という分け方です。
退会者・退職者のデータをどこまで持っていくか
辞めた人の記録は、消してよいデータとは限りません。会費の入金履歴、受講や修了の記録、問い合わせの履歴は、年度の報告や再入会の照会で使うことがあります。「現役だけ移せばいい」と決めてしまう前に、何に使っているかを洗い出します。
選択肢は、おおむね3つです。
- 新システムに「退会」の状態を持たせて、そのまま移す
- 新システムには現役だけを移し、退会者は読み取り専用の形(旧システムの保存、またはCSV)で別に保管する
- 一定の年数より古い退会者は移さない
どれを選ぶかを決めるときに、確認しておくことがあります。
- その記録を、いつ・誰が・何のために見るのか
- 保存の年限が、会則や規程、法令で決まっていないか
- 再入会のとき、過去の記録を引き継ぐのか、新しい番号を振るのか
- 退会者を含めた件数を、年度の報告で出す必要があるか
なお、名簿のデータを開発会社に渡すこと自体は、委託として適切に契約していれば本人の同意なしに行えます。ただし委託先を監督する責任は発注側に残ります。確認する項目は会員名簿を外部のシステム会社に渡して大丈夫かにまとめています。
添付ファイルと過去年度は、別の判断がいる
名簿の本体がExcelやデータベースにあっても、証明書の写し、顔写真、申込書のPDFは、共有フォルダやメールの中に散らばっていることがよくあります。これは名簿とは別に数えます。
- 何件あるか。まずフォルダの件数を数える
- ファイル名から、どのレコードのものか機械で判別できるか
- 判別できないものが何件あるか。それは人が開いて確認するしかない
- 同じ人のファイルが複数の場所にある場合、どれが最新か
1件ずつ人が開いて確認する作業は、件数がそのまま時間になります。だから早い段階で件数を数えます。「たぶん数百件」で進めると、始めてから数千件だったと分かることがあります。
過去年度についても、「何年分を移すか」ではなく、何年度から判定の対象にするかを先に決めます。新システムが何を自動で判定するかによって、必要な項目が決まるからです。
たとえばドローン操縦士協会の講習管理では、修了の判定に「実技が10時間以上あること」と「要件を満たした講師が担当していること」の2つが要ります。こうした判定条件を持つシステムでは、過去の記録にその2つが入っているかを先に確認します。入っていない年度のデータは、移しても判定ができません。
判定の対象にしない年度は、参照用として別に保管するか、表示だけできる形で残します。無理に新しい項目を埋めようとすると、埋めた値が事実かどうか分からなくなります。
移行の進め方(6ステップ)
- 旧システムからデータを出す CSVやExcelで全件出します。出力機能がなく、画面の一覧を印刷したものしかない、ということもあります。その場合は、何をどこまで手で入れ直すかを最初に決めます。
- 項目の対応表を作る 旧の項目名と新の項目名を1行ずつ並べ、意味の分からない項目に印をつけます。印のついたものを、担当者と一緒に一つずつ潰します。
- 件数を数える 全件数、重複候補の件数、空欄の件数、添付ファイルの件数。ここで作業量が見えます。見積もりの前にここまでできていると、金額の幅が小さくなります。
- 移行の判断を決めて、文書にする このページの5つについて、残す・寄せる・移さないを一つずつ決めます。口頭で決めると、当日に食い違います。
- 試しに移す(仮移行) 本番と同じ手順で新システムに入れてみて、件数が合うか、画面で正しく見えるかを確認します。ここで必ず想定外が出ます。1回で終わらせず、2回以上やる前提で計画します。
- 本番の移行 旧システムの利用を止める日を決め、その時点のデータで移します。移したあと、件数と、いくつかのレコードを実際に目で確認します。
5の仮移行を省かないでください。省くと、本番当日に初めて問題が見つかります。その日は後戻りができない日です。仮移行は、作業の手順そのものを検算する工程でもあります。
このあと、新しい画面を職員に使ってもらうところまでが切り替えです。研修とマニュアルの決め方は新しい業務システムを職員に使ってもらうにはに、納品後の保守の決め方は業務システムの保守・運用は誰がやるのかに書いています。
pegのやり方
pegでは、移行の話を最後ではなく最初にします。移すデータの状態が、作るシステムの形を決めることがあるからです。
- 業務のヒアリングから始めます。日本眼科医会の会員管理システムを作り直したときも、最初にやったのは事務局の業務を伺うことでした。どの項目が実際に使われていて、どの項目が形だけ残っているのかは、画面を見ただけでは分かりません。
- 試作画面(モック)で、移したあとの見え方を先に確認します。バックエンドに着手する前に仕様を固めるので、「移してみたら項目が足りなかった」を後から直すことになりません。
- データの整理は、発注側で担っていただくことがあります。重複をどちらに寄せるか、退会者をどこまで残すかは、pegでは決められません。pegは機械でできる整形と候補の一覧づくりまでをやり、判断は担当者にお願いします。この分担で、全体の作業量を減らせます。
- 移行の手順と対応表は、納品物に含めます。何をどう移したかの記録が残るので、あとで別の会社に引き継ぐことになっても同じ手順を再現できます。プログラム・設計資料・管理者権限を納品物として契約に明記しているのも同じ理由です。
- 全案件を2名以上で担当します。引き継ぎ資料を常に最新に保つので、移行の当日に1人しか分からない、という状態を作りません。
費用がどう決まるかは業務システムの開発費用はいくらかかるのかに、相談前に自社で埋めておく項目はヒアリングシートにまとめています。
よくあるご質問
データ移行は、見積もりに入っていますか。
見積もりの書き方によります。「データ移行一式」とだけ書かれている場合は、どこまでが含まれるのかを必ず確認してください。確認したいのは、何件を対象にするか、重複や表記ゆれの整理は誰がやるか、仮移行を何回やるか、添付ファイルを含むか、の4点です。見積もりの読み方はシステム開発の見積もりの読み方にまとめています。
旧システムからデータを出せないと言われました。
出せない理由を分けて確認します。契約上の制約なのか、出力機能が作られていないのか、やり方が分かる人がいないだけなのか。出力機能がなくても、データベースから直接読み出せることがあります。開発会社と連絡が取れない場合の進め方は開発会社と連絡が取れなくなったときの対処法に、受け取るものの一覧は引き継ぎチェックリストに書いています。
データをきれいにする作業は、こちらでやるべきですか。
判断が要る部分は発注側でお願いしています。どちらを残すか、どの表記に寄せるかは、業務を知っている人でないと決められないためです。機械でできる整形と、候補の一覧づくりは開発側でやります。どこまでを自社で担うかは、最初の打ち合わせで分担を決めます。
移行に失敗したら、元に戻せますか。
旧システムをすぐに止めず、一定期間は読み取りだけできる状態で残しておく方法があります。いつまで残すかは契約の前に決めておいてください。残している間は旧システムのサーバー費用が発生し続けるため、期限のない「当面残す」は避けます。
名簿が複数のExcelに分かれています。まとめてから相談すべきですか。
まとめる前にご相談ください。どのファイルが正で、どれが写しなのかを判断するところから一緒に見たほうが早く、自社でまとめ直したあとに「元のほうが正しかった」と分かることがあります。独自の名簿システムを刷新するときの進め方はオリジナルの名簿管理システムを刷新するときの進め方にまとめています。
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