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社内で業務システムが分かるのが1人だけのとき|担当者が辞める前に引き継ぐもの

「このシステムのことが分かるのは、○○さんだけ」。総務や経理の方が本来の業務のかたわらで面倒を見ている業務システムが、社内に1つはあるのではないでしょうか。

その担当者が退職することになったとき、多くの会社が「引き継ぎ資料を作っておいてください」とお願いします。ところが資料ができあがっても、退職から数か月たったころに業務が止まる、ということが起こります。

引き継ぎで失われているのは、操作の手順ではありません。「なぜその運用になっているのか」という判断の理由と、本人の名前で押さえている契約やアカウントです。この記事では、退職までの限られた時間で何から押さえるかを、順番にまとめました。

目次(8項目)を開く
  1. 引き継ぎでいちばん失われるのは、操作手順ではない
  2. 1人にしか分からなくなるのは、だいたいこの5つ
  3. 退職までの時間で全部は聞けない|先に押さえる順番
  4. 「引き継ぎ資料を作ってください」だけでは引き継げない
  5. 鍵(契約とアカウント)は、人より先に止まる
  6. 退職が決まってからの進め方6ステップ
  7. pegのやり方
  8. よくあるご質問

引き継ぎでいちばん失われるのは、操作手順ではない

操作の手順は、実のところ画面を触れば大体わかります。どのボタンを押すと何が出るかは、後任の方が数日もさわっていれば身につきます。

分からないのは、その先です。「この条件のときだけ、なぜ別の扱いにしているのか」「どうしてこの項目が増えているのか」「なぜこの月だけやり方が違うのか」。こうした判断の理由は、画面のどこにも書かれていません。前の担当者の頭の中にだけあります。

理由が残っていないと、後任の方は「前任者がやっていたとおり」を再現するしかなくなります。同じ場面であれば再現できますが、初めての例外が来たときに決められません。制度や規程が変わったときに、どこを直せばよいかも分かりません。

引き継ぎのゴールは「同じ操作ができること」ではなく、「初めて見る例外に、根拠をもって判断できること」です。この違いを先に決めておくと、聞き取る内容が変わります。

1人にしか分からなくなるのは、だいたいこの5つ

業種や規模が違っても、属人化する場所はよく似ています。多いのは次の5つです。

分からなくなるものどこにあるか本人がいなくなると起きること
例外の判定条件
(この条件のときだけ別扱い)
本人の頭の中。規程に書かれていないことも多い例外が来たときに誰も決められない。とりあえず通して、あとで数が合わなくなる
年に1回・月に1回だけ動く作業
(年度の切り替え、会費の請求、資格の更新、締め処理)
本人の手帳や個人フォルダのメモその時期が来るまで誰も気づかない。退職の数か月後に止まる
外部サービスの契約とアカウント
(サーバー、ドメイン、SSL、メール配信など)
本人の名前での申し込み、本人のメールアドレス更新の案内が誰にも届かなくなり、期限切れでサービスが止まる
手で直している場所
(毎回ファイルを開いて直す、特定の値を入れ直す)
本人の作業の習慣。手順書には出てこない後任が気づかないまま運用され、データが少しずつ合わなくなる
過去に直した経緯
(なぜこの項目が増えたか、なぜこの画面だけ違うか)
本人の記憶、古いメールのやり取り要らない機能だと判断して消してしまい、あとで必要だったと分かる

この5つに共通しているのは、どれも毎日は起きないことです。毎日やっていることは後任も自然に覚えますが、年に一度しかないことや、めったに来ない例外は、引き継ぎの場で話題にすら上がりません。

木の机に書類とノートパソコンが広げられている様子

退職までの時間で全部は聞けない|先に押さえる順番

退職が決まってから使える時間は、たいてい数週間から1、2か月です。全部を聞こうとすると、いちばん大事なものが最後に回ってしまいます。

優先順位は「後からでは取り返せないかどうか」で決めるのが確実です。退職後でも調べられることは後回しにして、本人がいるうちにしかできないことから押さえます。

優先度押さえるものなぜその順番か
最優先
(今週中に)
契約の名義・支払い方法・更新期限、管理者アカウント、サーバーとドメイン退職後は本人に頼めない。名義変更や再発行の手続きが必要になり、その間サービスが止まる
次
(退職の1か月前まで)
年に1回・月に1回だけ動く作業の時期と手順、例外の判定条件その時期が来るまで誰も気づかない。気づいたときには聞く相手がいない
その次
(引き継ぎ期間中)
日々の操作、よくある問い合わせへの答え方画面を触れば分かる部分が多く、後任が実際に動かしながら覚えられる
後でもよいめったに使わない機能の細かい使い方必要になったときに調べられる。ここに時間を使うと、上の3つが手薄になる

退職後に本人へ連絡してパスワードを教えてもらう、という前提で計画を立てないことをおすすめします。本人の厚意に頼る形になりますし、連絡がつかなくなることもあります。在職中にできることと、退職後はできないことを分けて考えてください。

「引き継ぎ資料を作ってください」だけでは引き継げない

引き継ぎを本人任せにすると、だいたい次のように進みます。

  1. 本人は「当たり前のこと」を書かない。毎日やっていることほど、説明が要るとは思わない
  2. できあがるのは画面ごとの操作手順。判断の理由は、項目として立たない
  3. 後任が読んでも、どこが大事なのか分からない。全部が同じ重さに見える
  4. 本人が退職したあと、初めての例外が来る
  5. 判断できず、前任者のやり方を思い出して真似る。真似られない場面で止まる

これは本人の書き方が悪いのではありません。自分が何を知っているかは、自分では分からないからです。毎日やっていることほど、説明が必要だと思えません。

ですので、引き継ぎ資料は「本人が書く」のではなく、「後任か上司が質問して、本人が答える」形にします。質問する側は何も知らないので、当たり前のことも遠慮なく聞けます。

聞き方のこつは、「どうやるか」ではなく「どういうときに、どう決めているか」を聞くことです。たとえば次のような質問です。

  • この画面で、例外として別の扱いにすることはありますか。それはどういうときですか
  • 1年のうち、この時期だけやる作業はありますか。何月ですか
  • 画面でできなくて、手で直している作業はありますか
  • このシステムに関係して、お金を払っている契約はありますか。申し込みの名義は誰ですか
  • 過去に困ったことはありますか。そのとき、誰に連絡して、どう直しましたか
  • あなたが休んだ日に、誰かが代わりにやったことはありますか。そのとき何が起きましたか

答えはその場で書き取ります。本人の了解をとったうえで録音しておくと、あとから聞き直せます。きれいな文書にまとめるのは後でかまいません。まず、言葉になっていないものを言葉にするのが先です。

鍵(契約とアカウント)は、人より先に止まる

担当者がいなくなっても、システムそのものはしばらく動き続けます。先に止まるのは、その周りです。

  1. 更新の案内メールが届かなくなる(連絡先が本人のメールアドレスだったため)
  2. 支払いが止まる(本人の名前での申し込み、本人が上げていた稟議だったため)
  3. 期限切れでサービスが止まる。証明書が切れて画面が開かなくなる、ドメインが失効する

この順番で進むので、気づくのはいつも3番目です。しかも止まってから対処しようとすると、名義が本人のままなので、会社として手続きができません。

ですから、退職が決まって最初にやるのは引き継ぎ資料づくりではなく、このシステムに関係する契約の棚卸しです。次の項目を一覧にします。

  • サーバー・ドメイン・SSL証明書の契約先、申し込みの名義、更新の期限
  • 管理者アカウントのIDと、パスワードの保管場所(本人の個人メモにしかない状態をなくす)
  • 外部サービス(メール配信、決済、地図、認証、ファイル保管など)の契約先と名義
  • 開発会社・保守会社の連絡先、契約の有無と期間
  • それぞれの支払い方法と、社内で誰が決裁しているか

一覧ができたら、連絡先を本人の個人アドレスから会社の共有アドレスに変えます。これは在職中なら本人が自分でできます。退職後は、サービスによっては本人確認が通らず手続きが止まります。

開発会社から受け取っておくものについては、引き継ぎチェックリストに25項目をまとめています。開発会社と連絡が取れなくなっている場合は、開発会社と連絡が取れなくなったときの対処法もあわせてご覧ください。

退職が決まってからの進め方6ステップ

ここまでを、実際に動く順番に並べ直します。

  1. 契約とアカウントを棚卸しする。名義と更新期限を一覧にする。最優先で、後任が決まっていなくてもできる
  2. 連絡先を個人から会社の共有アドレスに変える。本人が在職しているうちに、本人の手で行う
  3. 1年分の作業カレンダーを作る。毎月・毎年の決まった作業を、月ごとに並べる。「4月:年度切り替え」「6月:会費請求」のように、名前と時期だけで十分
  4. 例外の判定条件を聞き取る。「どういうときに、どう決めているか」を質問の形で聞き、その場で書き取る
  5. 後任が、本人がいる間に1周やってみる。説明を聞くのではなく、実際に操作する。手が止まったところが、資料に足りない部分
  6. 残った「分からないこと」を一覧にする。そのまま開発会社や次の相談先に渡せば、調べ直しの範囲がはっきりする

後任がまだ決まっていない場合も、1から3までは本人がいる間に進められます。4の聞き取りは、上司の方が代わりに行って書き取っておくことができます。5だけは後任が決まってからになりますが、1から4が終わっていれば、後任が入ってからの立ち上がりが変わります。

このとき、手元に何が残っているかを確かめる作業は、相談前の整理にも使えます。ヒアリングシートの7項目に沿って埋めておくと、そのまま次の打ち合わせの材料になります。

pegのやり方

pegは、受託した案件を必ず2名以上で担当し、引き継ぎ資料を常に最新の状態にしています。これは社内の都合ではなく、発注側の担当者が代わったときに、開発側に「分かる人」が残っているようにするためです。開発側も1人体制だと、両方の担当者が同時にいなくなる場面が起こります。

プログラム・設計資料・管理者権限は、納品物として契約に明記しています。渡していないものがあると、担当者が代わったときに会社として手が出せなくなります。納品後3か月の無償の不具合対応も契約に書いています。

ドローン操縦士協会の講習・実技管理システムでは、「実技が10時間に満たない受講者は修了にできない」「要件を満たしていない講師の記録は登録できない」といった判定条件を、システム側の判定として持たせました。もともとは事務規程と担当の方の判断の中にあったものです。判定は記録の時点で自動的に行われるので、担当の方が代わっても判定の結果は変わりません。制度が変わったときに直す場所も決まっています。

日本眼科医会の会員管理システムでは、機能の一覧からではなく、事務局の業務のヒアリングから始めました。書かれていない運用を聞き取って形にする作業そのものです。試作画面(モック)で見え方と操作の流れを確かめてから、中身の開発に入りました。

作るときは、確立された技術と標準の型を使います。特殊な作りにしないのは、次にそのシステムを触る人が誰であっても読めるようにするためです。

データの整理や名簿の突き合わせは、発注側に担っていただくことで作業量を抑えています。ただし「社内に分かる人がいない」という状態のときは、何がどこにあるかを洗い出すところから一緒に進めます。お引き受けできる範囲が合わないときは、追加のご相談をするか、辞退することもあります。

システムそのものの入れ替えを考える時期かどうかは、担当者の退職とは別の判断です。判断の材料は業務システムは何年で作り直すのかにまとめています。

よくあるご質問

担当者が辞めたあとで、何も分からない状態からでも相談できますか。

できます。手元にあるもの(ログインできる画面、過去のメールのやり取り、請求書、通帳の引き落とし)から、どのサービスを使っているかを洗い出すところから始めます。ただし、本人しか知らないパスワードはこちらでも復元できません。各サービスの再発行の手続きになります。

引き継ぎ資料は、どのくらいの分量が必要ですか。

分量よりも項目です。契約とアカウントの一覧、1年分の作業カレンダー、例外の判定条件。この3つがあれば、操作手順が薄くても運用は回ります。逆に、操作手順だけが分厚くても、初めての例外が来たときに止まります。

後任がまだ決まっていません。何から手をつければよいですか。

契約とアカウントの棚卸しです。後任がいなくても進められますし、期限切れでサービスが止まるという、いちばん避けたい事故を防げます。例外の判定条件の聞き取りは、上司の方が代わりに聞いて書き取っておくことができます。

このタイミングで、システムごと作り直したほうがよいでしょうか。

担当者の退職は、入れ替えを考えるきっかけの一つです。ただし、退職までの数か月で作り直すのは無理があります。まず引き継いで動く状態にしてから、入れ替えの判断は別に行うことをおすすめします。判断の基準は業務システムは何年で作り直すのかをご覧ください。

社内に分かる人が1人もいなくても、システムは引き継げますか。

引き継げることが多いですが、条件があります。プログラムと設計資料、管理者権限が手元にあるかどうかです。なければ、まずそれを受け取る交渉から始まります。何を受け取るべきかは引き継ぎチェックリストの25項目にまとめています。

あわせてお使いください

引き継ぎチェックリスト(開発会社を変えるときに受け取るもの25項目)/ヒアリングシート(相談前に自社で埋める7項目)/簡易診断(3つの質問で方針がわかる)/RFPテンプレート

まずは話すところから

社内に分かる人がいない状態でも、手元にある材料から整理できます。何から話せばよいか決まっていなくてもかまいません。ご相談は無料です。