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新しい業務システムを職員に使ってもらうには|研修とマニュアルの決め方

システムができあがったのに、現場では前のやり方が続いている。入力されない項目がある。結局、担当者ひとりが代わりに打ち込んでいる。システムの入れ替えでいちばん多い行き詰まりは、作る段階ではなく、使い始めてからのこの場面で起きます。

このページでは、新しい業務システムを職員に使ってもらうために、誰が何を用意し、どの順番で切り替えるかを整理します。研修とマニュアルの話だけでなく、その前にできること、使われ始めてから1か月でやることまでまとめました。

発注側で担える部分がはっきりすると、開発会社に頼む範囲も決まります。

使われないのは、覚える気がないからではない

「職員が新しいものを嫌がる」という言い方をされることがあります。ただ、現場で話を伺っていくと、理由はもっと具体的です。

  • 前のやり方なら1分で終わっていた作業が、新しい画面だと3画面を行き来する
  • どの項目が必須なのか画面から読み取れず、入れてから怒られる
  • 例外のとき(途中でやめた人、代理で申し込んだ人、年度をまたいだ人)の入れ方が決まっていない
  • 間違えたときに自分で直せるのか分からないので、触るのが怖い

どれも「覚える」では解決しません。画面の作りか、業務の取り決めのほうを直す話です。研修とマニュアルを厚くする前に、ここを切り分けておくと、教える量そのものが減ります。

ホワイトボードに書き込みながら話す二人

「覚えてもらう」の前に、画面のほうを直せる

人が覚えて間違えないようにするのではなく、間違えられない作りにしておく。これがいちばん確実です。

ドローン操縦士協会の講習・実技管理では、受講記録のルールをシステム側の判定に持たせました。実技が10時間に足りていない受講者は修了にできない、要件を満たしていない講師は実技の記録を登録できない、そして修了要件を満たしているかどうかは一覧で見える。事務局が条件を記憶して突き合わせる必要がなくなった分、覚えることが減りました。

同じ考え方で減らせるものはいくつもあります。

  • 選択式にできる項目を自由入力にしない(表記ゆれの修正作業が消える)
  • 入れてはいけない組み合わせは、保存の前に画面で止める
  • 日付や番号は自動で入れる。手で打たせない
  • 権限のない機能はボタンそのものを出さない(押してから断られるのが、いちばん覚えにくい)

紙とハンコで回していた業務をそのまま画面にすると、紙の自由さだけが残って、判断の根拠が人の頭に残ったままになります。移す前に決めることは 紙とハンコで回している申請業務をWebにする前に決める5つのこと にまとめています。

研修とマニュアルは誰が作るのか

見積もりに「操作研修」「マニュアル作成」と1行だけ書かれていることがあります。中身の分担を決めずに進めると、開発会社が作った操作説明は届いても、現場が知りたい「自分たちの業務での使い方」が誰も書いていない状態になりがちです。

用意するもの向いている担い手理由
画面ごとの操作説明(どこを押すと何が起きるか)開発会社仕様がそのまま根拠になる。画面変更のときに直す場所も分かる
業務の手順書(うちの仕事をこの画面でどうやるか)発注側業務の言葉で書けるのは中の人だけ。例外の扱いも中で決まる
役割ごとの早見表(1枚もの)発注側(ひな形は開発会社)誰がどこまで触れるかは組織の取り決め
研修の場づくり(日程・会場・参加者)発注側現場の都合が分かるのは中の人
研修での説明役開発会社+発注側の担当者最初の回は一緒に立つと、質問から直すべき場所が見える

発注側が担う部分があるのは、手を抜くためではありません。業務の手順書を外から書こうとすると、ヒアリングのやり直しが増えて、その分が費用と期間に乗ります。中で書けるものは中で書くほうが、速くて正確です。

この分担の考え方は 業務システムの開発費用はいくらかかるのか でも触れています。

マニュアルは3種類に分けて考える

1冊にまとめると、分厚くて誰も読まないものができます。読む場面が違うので、分けたほうが使われます。

種類分量の目安使う場面
早見表(1枚)A4で1枚毎日やる作業だけ。手元に置く、または画面の横に貼る
業務の手順書業務ごとに2〜4ページ月次・年次の作業、担当が代わったとき
操作の説明(全画面)画面の数ぶん困ったときに調べる。通して読むものではない

優先して作るのは早見表です。毎日の作業は数が限られているので、そこだけ迷わなくなれば、使われ始めます。残りは使いながら足していくほうが、現実に合ったものになります。

手順書を作るときは、うまくいく流れだけでなく、例外のときにどうするかを1行ずつ書き添えてください。「途中で退会した人」「紙で届いた申込を代理で入れるとき」「前年度の記録を直すとき」。この3つが書かれていない手順書は、最初の月末で止まります。例外の洗い出しは ヒアリングシート の7項目目が同じ観点です。

切り替え当日までの6ステップ

研修を1回開いて終わり、にしないための順番です。前の2つは、開発がまだ途中の時期から始めます。

  1. 試作画面を現場に見せる(開発の途中) 完成品を初めて見せるのではなく、作っている間に実際に使う人に触ってもらいます。この時点なら、画面の作りをまだ直せます。
  2. 先に触る人を2〜3人決める 役割の違う人を選びます(毎日入力する人、確認する人、集計を見る人)。この人たちが後で現場の相談先になります。
  3. 自分たちのデータで通してみる 架空のデータではなく、実際の過去の案件を数件入れて、最初から最後まで通します。例外が見つかるのはここです。
  4. 早見表を作る 通してみた手順をそのまま1枚にします。先に触った人が書くと、現場の言葉になります。
  5. 研修は役割ごとに分ける 全員を集めて全機能を説明すると、自分に関係ない話の時間が長くなります。役割ごとに30〜40分、自分がやる作業だけを実際に触る形にします。
  6. 切り替え直後の相談先を決めて、全員に伝えておく 誰に聞けばいいか分からない状態が、前のやり方に戻る一番の理由です。先に触った人と、開発会社の窓口の両方を周知します。

このうち1と3は、開発会社に任せきりにできない部分です。逆に、ここに発注側の手が入っていると、研修の時間は短くて済みます。

使われ始めてから最初の1か月でやること

公開して終わりにせず、1か月だけは意識して見ます。この期間に出た声のうち、直すべきものと、慣れで解決するものを分けます。

  • 質問をためる場所を1か所にする 口頭で消えると、同じ質問が何度も出ます。メールでも共有の表でも構いません
  • 同じ質問が3回出たら、画面か早見表を直す 3回出る質問は、覚え方の問題ではなく作りの問題です
  • 入力されていない項目を見る 空欄が多い項目は、必要とされていないか、入れ方が分からないかのどちらかです
  • 月末・月初の作業に一度立ち会う 毎日の作業は研修で足りますが、月次の作業は本番で初めて通ります

pegは納品後3か月の無償の不具合対応を契約に書いています。ただし、「思っていたのと違う」は不具合ではありません。どこまでが対応に含まれ、どこからが追加になるのかは、契約前に決めておくほうがお互いに楽です。保守の範囲の決め方は 業務システムの保守・運用は誰がやるのか にまとめています。

pegのやり方

pegでは、使い始めてから教える量を減らすために、作る途中の段階で現場に見てもらう進め方をとっています。

  • 試作画面(モック)で仕様を固める 日本眼科医会の会員管理システムでは、業務のヒアリングから始めて、試作画面で仕様を固めてから中身の開発に入りました。実際に使う画面を見ながら決めているので、本番で初めて見る画面がありません
  • 覚えることをシステム側に移す 判定の条件を人の記憶に置かず、画面の制御として作ります(ドローン操縦士協会の修了要件の判定がこの形です)
  • ヒアリングは業務の言葉で伺う 専門用語を使わず、いつもの業務の言葉で伺います。そのまま手順書の言葉にできます
  • 全案件を2名以上で担当し、引き継ぎ資料を常に最新にしておく 聞ける相手が1人しかいない状態を作りません
  • プログラム・設計資料・管理者権限を納品物として契約に明記する マニュアルを後から自社で直せるよう、元になる資料をお渡しします

pegは、確立された技術と標準の型で作ります。珍しい作りにしないほうが、操作も説明しやすくなります。大手との違いについては 大手のシステム会社と小さな会社は何が違うのか、実際の進み方は 日本眼科医会の事例 をご覧ください。

いまの状況から次に何をすべきか迷っているときは、簡易診断(3つの質問)もお使いください。

よくあるご質問

研修は何回くらい必要ですか。

役割ごとに1回ずつ(30〜40分、実際に触る形)と、切り替え後1か月のあいだに1回のおさらいで足りることが多いです。全員を一度に集めて全機能を説明する形は、時間が長いわりに残りません。

マニュアルは開発会社に作ってもらえますか。

画面ごとの操作説明は開発会社が作れます。一方で「うちの業務をこの画面でどうやるか」という手順書は、業務の言葉で書けるのが中の方なので、発注側で作っていただくほうが速く、正確です。ひな形と画面の説明をお渡しして、そこに業務の流れを書き足していく形をおすすめしています。

パソコンが苦手な職員が多いのですが、進められますか。

その前提で画面を作ります。選べるものは選択式にする、入れてはいけない組み合わせは保存前に止める、権限のない機能は表示しない。覚える量を減らすほうが、慣れてもらうより確実です。作っている途中の試作画面を、実際に使う方に触っていただく時間も取ります。

前のやり方と二重運用になってしまいました。どうすればよいですか。

二重になる原因は、ほとんどの場合「新しい側でできない作業が1つ残っている」ことです。何がそれなのかを特定するのが先で、研修を増やしても戻りません。質問をためる場所を作り、同じ質問が3回出た作業を洗い出すと見つかります。

研修やマニュアルの分を自社で担うと、費用は変わりますか。

pegでは、データ整理やテスト、手順書の作成など、発注側で担っていただける作業を分けて考えます。金額の仕組みそのものは 開発費用のページ にまとめていますので、そちらをご覧ください。具体的な範囲と条件は、お話を伺ってからご相談させてください。

まずは話すところから

仕様書がなくても、社内にエンジニアがいなくても構いません。いまの業務のやり方と、困っていることを伺うところから始めます。