自治体のAIチャットボットでできること(住民向け・職員向け)
AIチャットボットは、住民が文章で入力した質問に対して、あらかじめ用意した情報をもとに自動で回答する仕組みです。決まった質問と回答を登録しておく従来型のチャットボットと比べ、AIを使うと、言い回しが違う質問にも対応しやすくなります。
自治体での使い方としては、たとえば次のようなものが考えられます。
- 手続きの方法や必要書類、窓口の場所などの案内
- 子育て、健康、福祉など、分野ごとの制度の説明
- 予防接種や健診など、住民が不安や疑問を抱きやすいテーマへの情報提供
- 夜間や休日など、窓口が閉まっている時間帯の一次対応
ただし、AIチャットボットは職員の代わりにすべてを判断する仕組みではありません。正確な情報に住民がたどり着くのを手助けする仕組みとして考えると、導入の目的や設計がはっきりします。
職員からの問い合わせ対応にも使える
チャットボットは住民向けだけでなく、庁内の問い合わせ対応にも使えます。たとえば、文書管理や財務会計などの業務システムの操作方法、庁内の規程や申請の手順など、職員から担当課に何度も寄せられる質問です。
回答のもとになるのは、庁内のマニュアルや通知文です。住民向けとは公開する範囲も置く場所も変わるため、住民向けはLINEやホームページ、職員向けは庁内のネットワークの中、と分けて考えるのが基本です。最初から両方を作る必要はありません。問い合わせの件数が多いほうから始めると、導入後の変化を確かめやすくなります。

導入で押さえる5つのポイント
ポイント1:目的と対象を絞る
「住民サービスの向上」「問い合わせ対応の効率化」といった大きな目的だけで始めると、何を答えられるようにするかが定まらず、回答の範囲が広がりすぎてしまいます。
まずは、誰の、どんな疑問や不安に応えるのかを具体的に決めましょう。「乳幼児の保護者が、予防接種について抱く疑問」のように対象とテーマを絞ると、必要な情報や回答の口調も決めやすくなります。問い合わせの多い分野から始めて、うまくいけば広げていく進め方がおすすめです。
ポイント2:住民が使い慣れた窓口に置く
どれだけ便利な仕組みでも、住民に見つけてもらえなければ使われません。設置場所は、対象とする住民がふだん使っている窓口から考えましょう。
たとえば、自治体の公式LINEアカウントがすでに住民に使われている場合は、LINE上でAIチャットを使える形にすると、新しいアプリを入れてもらう必要がありません。ホームページに設置する場合は、関連する制度のページから自然に案内できる位置に置くことが大切です。
ポイント3:回答の根拠となる情報を整える
AIチャットボットの回答の質は、もとになる情報で決まります。自治体のお知らせ、制度の説明資料、よくある質問、窓口に寄せられた問い合わせの記録、住民への調査結果など、自治体が内容を確認した情報を根拠にすることが大切です。
情報を集めると、古い内容や、部署によって説明が異なる箇所が見つかることがあります。導入の準備は、住民向けの情報そのものを見直す機会にもなります。
ポイント4:答えない範囲と、人につなぐ道を決める
AIには、もっともらしい誤った回答をしてしまう可能性があります。そのため、答えてよい範囲と、答えない範囲をあらかじめ決めておくことが重要です。
- 個別の事情による判断が必要な質問には答えず、担当窓口を案内する
- 健康や安全に関わる緊急性の高い相談は、適切な相談先へすぐにつなぐ
- 根拠となる情報にない質問には、推測で答えない
- 氏名や住所など、個人を特定できる情報は入力しないよう案内する
あわせて、回答の最後に問い合わせ先を示すなど、チャットで解決しなかった住民が人に相談できる道を必ず用意しておきましょう。個人情報の扱いについては、自治体の規程や方針に沿って依頼先と確認しておくことが欠かせません。
ポイント5:公開後の運用体制を先に決める
AIチャットボットは、公開して終わりではありません。制度の変更や新しいお知らせに合わせて根拠となる情報を更新したり、住民とのやりとりを見直して答えられなかった質問を補ったりする作業が続きます。
誰が情報を更新するのか、どのくらいの頻度で見直すのか、困ったときに誰へ相談するのかを導入前に決めておくと、担当者の異動があっても運用が途切れにくくなります。
導入の進め方
5つのポイントを踏まえると、導入は次のような流れで進めると整理しやすくなります。
- 1
目的と対象を決める
誰の、どんな疑問や不安に応えるのかを決めます。
- 2
根拠となる情報を集める
お知らせ、制度資料、問い合わせの記録、調査結果などを集めます。
- 3
答え方のルールを決める
答えない範囲、人につなぐ条件、回答の口調などを決めます。
- 4
試作して職員で試す
実際に寄せられそうな質問を入力し、回答を確かめます。
- 5
公開して見直しを続ける
やりとりを定期的に確認し、情報と回答を改善します。
特に4の段階では、ふだん窓口で住民対応をしている職員に試してもらうことをおすすめします。住民がどんな言葉で質問するかを知っているのは、現場の職員だからです。発注側の準備で押さえたい点は、システム開発が失敗する5つの理由と発注側の対策でも解説しています。
よくあるつまずき
答えられる範囲を広げすぎる
あらゆる分野に答えようとすると、根拠となる情報の整備も見直しも追いつかなくなります。分野を絞って始めるほうが、回答の正確さを保てます。
設置しただけで案内が足りない
入口が分かりにくいと利用されません。関連する制度のページや、住民向けのお知らせからの導線もあわせて設計しましょう。
更新する人が決まっていない
制度改正のたびに情報を直す担当が決まっていないと、案内の内容が実際とずれていきます。運用体制は公開前に決めておきます。
LINEチャットボットにするか、ホームページに置くか
同じAIチャットボットでも、どこに置くかで使われ方が変わります。住民がふだん開くアプリの中にあるか、用事があってホームページを訪れたときにだけ目に入るかの違いです。
| 置く場所 | 住民側の手間 | こちらから知らせられるか | 向いている場面 |
|---|---|---|---|
| LINE公式アカウント | 友だち追加だけ。ふだん使っているアプリの中で完結する。 | できる。接種時期や申請の締切など、時期の決まった案内を届けられる。 | 子育て、健診、予防接種など、住民が繰り返し確認するテーマ。 |
| ホームページ上のチャット窓 | 追加の登録は不要。ただしページを訪れた人にしか届かない。 | できない。訪問を待つことになる。 | 手続きの方法や必要書類など、調べに来た人への案内。 |
| 両方に置く | どちらからでも同じ回答にたどり着ける。 | LINE側でできる。 | 回答の中身を一度つくれば、置き場所は増やせる。段階的に広げる場合。 |
回答のもとになる情報は、置き場所が変わっても同じものを使えます。まずどちらか一方で始めて、あとから広げる進め方で問題ありません。
費用の考え方と、見積書で確認すること
見積もりは、おおむね次の4つに分かれます。合計額だけを比べても判断できないのは、この内訳の線引きが会社ごとに違うからです。
- 初期構築:窓口の用意、回答の仕組みの設定、見た目の調整。
- 回答データの整備:既存のお知らせや制度資料を、回答に使える形に整える作業。ここを自治体側でやるか委託するかで、金額が大きく変わります。
- 月額利用:システムの利用料。質問の件数や利用者数で段階が分かれていることが多い項目です。
- 運用支援:公開後の回答の見直し、報告資料の作成、問い合わせ対応。
同じ「AIチャットボット」でも、1つの分野を案内するものと、全庁の総合案内をするものでは、別のものと考えたほうが実態に合います。金額の幅は、技術の差より対象範囲の差で生まれます。
見積書で確認しておく5つのこと
- 回答のもとになる情報を整える作業は、どちらが担当するか。
- 質問数や利用者数に上限があるか。超えたときはどうなるか。
- LINEを使う場合、メッセージの配信費用はどちらの負担か。
- 年度末の実績報告に使える資料が出るか。別料金か。
- 契約が終わるとき、回答データと設定を引き取れるか。
最後の一つは、次の調達のときに差が出ます。引き渡しの範囲はシステムの引き継ぎチェックリストに整理しています。
調達仕様書に書いておく項目
複数社から同じ条件で提案を受けるために、仕様書に入れておきたい項目です。下の枠の中をそのままコピーしてお使いください。
個人情報とネットワークの扱い
住民向けの案内チャットは、庁内ネットワーク(LGWAN)の外に置く形が一般的です。そのうえで、氏名や連絡先を入力させない設計にしておくと、庁内の審査も公開後の運用も軽くなります。申請の受付まで行う場合は、取得する情報と保存先、保存期間、委託先を仕様書で特定しておいてください。
提案依頼書そのものの書き方はシステム開発の提案依頼書(RFP)テンプレートにまとめています。
pegの取り組み:LINE上のAIチャット
pegは、ヒアリングと手元の資料をもとに、作りたいものを形にします。職員の方がAIの仕組みを詳しく知っている必要はありません。
官公庁の入札案件での取り組み
ある官公庁の入札案件では、予防接種に関する保護者の不安を軽減するLINE上のAIチャットを、調査データとヒアリングのみで構築しました。自治体・官公庁向けの取り組みは、自治体・官公庁向けのご案内にまとめています。
このチャットで実際に決めたことのうち、ほかの分野のチャットボットにも当てはまるものを挙げます。
- 友だち追加の直後に、できること・できないことを示す
- 高い熱やけいれんなど急ぐ相談では、回答の先頭に小児救急電話相談(#8000)と119番を出し、次に聞く質問の候補は出さない
- 接種してよいかなど判断が必要な相談には答えを出さず、主治医と接種医への確認を案内する
- 名前や生年月日は、AIに渡す前・記録する前に自動で伏せ字にする。写真は確認も保存もしない
- ご担当者が指定した言い換えを、AIの回答のあとに機械的に当てはめる
- 公開前に、間違えると困る質問60問で回答を確かめる
場面ごとの設計は事例ページで詳しく紹介しています。
よくあるご質問
QAIチャットボットが間違った回答をしないか心配です。
誤った回答の可能性を完全になくすことは難しいため、回答の根拠となる情報を自治体が確認したものに限る、答えられない質問は窓口の案内に切り替える、といった設計が大切です。公開前の試験と、公開後の会話の見直しも欠かせません。
QLINEとホームページのどちらに設置するのがよいですか?
対象とする住民がふだん使っている窓口を選ぶのが基本です。すでに自治体の公式LINEアカウントに多くの住民が登録している場合は、LINE上で使える形にすると気軽に利用してもらいやすくなります。目的によっては両方に設置する方法もあります。
Q職員向けの問い合わせ対応にも使えますか?
使えます。業務システムの操作方法や庁内の手続きなど、担当課に繰り返し寄せられる質問が向いています。住民向けとは回答のもとになる情報と公開範囲が違うため、置く場所を分けて設計します。
Q職員にAIの専門知識がなくても導入できますか?
導入できます。自治体側が担うのは、目的と対象を決めること、回答の根拠となる情報を提供すること、公開後の運用体制を決めることです。技術的な設計や構築は、依頼先に任せることができます。
Q入札の仕様書づくりの段階から相談できますか?
ご相談いただけます。対象とする住民やテーマ、手元にある資料を伺い、進め方と概算の目安をご提案します。ご相談は無料です。
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