公益法人の事業報告と立入検査|あとから見せられる形で記録を残す
公益認定を受けた法人は、毎年2種類の書類を行政庁に出します。内閣府の資料では、事業計画書等は毎事業年度開始の日の前日までに、事業報告等は毎事業年度の経過後3か月以内に提出すると書かれています(認定法第22条第1項)。この2つの期限は、たいてい事務局の予定表に載っています。
事務局が困るのは、出すところではなく、出したあとに聞かれるところです。内閣府が立入検査の指摘をまとめた資料を見ると、上位に並ぶのは「規程の未整備、運用誤り」と「備え置き資料、議事録不整備」。どちらも、やっていないというより、やったことがあとからたどれない、という形の指摘です。
ここでは、日々の記録をどう残しておけば検査や閲覧に答えられるかを、システムの仕様の言葉に直して書きます。公益認定の取り方や申請書の書き方には触れません。
指摘されているのは「書類がないこと」ではない
内閣府の「定期提出書類と立入検査における留意事項」には、令和元年度から令和3年度までの延べ1,290法人を対象にした集計が載っています。多い順に5つ、原文の書き方のまま並べます。
| 指摘された事項 | 割合 |
|---|---|
| 規程の未整備、運用誤り | 24% |
| 備え置き資料、議事録不整備 | 17% |
| 会計処理が不適切 | 10% |
| 現金・印鑑・金庫管理が不十分 | 9% |
| 代表理事等の理事会での報告がない又はその確認ができない | 8% |
5番目の書き方に目を留めてほしいところがあります。「報告がない」と「その確認ができない」が、並べて1つの項目になっています。つまり、報告していても、報告したことが確認できなければ、同じ欄に数えられます。
2番目も同じ形です。同じ資料のチェックリストでは、備え置き資料の指摘が「全く整備していない」「一部に不備あり」「ファイリング等が必要」の3つに分かれています。3つ目は、書類があることが前提の指摘です。
事務局の実感としては、仕事はしているのに指摘される、という形になります。システムで手を入れられるのは、まさにこの部分です。

5つの述語で、記録の重さを分ける
制度の文章は、中身を読む前に述語を見ると整理しやすくなります。公益法人の報告と検査に関わる記述を、述語で並べ替えるとこうなります。
| 原文の述語 | 何を定めているか | システムでの受け止め方 |
|---|---|---|
| 毎事業年度開始の日の前日までに提出(事業計画書等・認定法第22条第1項) | 年度が始まる前に出す | 期限が先にある。カレンダーに載せれば足りる |
| 毎事業年度の経過後3か月以内に提出(事業報告等・同項) | 年度が閉じてから3か月 | この3か月で集め直せる形にデータが残っているか |
| 何人も閲覧可能(認定法第21条第4項) | 法人の事務所での閲覧 | 相手を選べない。いつ来ても出せる状態を保つ |
| 公表するものとする(提出を受けた書類・認定法第22条第2項) | 行政庁による公表 | 出したものは外に出る前提で中身を決める |
| 関係者に質問させることができる(認定法第27条第1項) | 行政庁の検査の権限 | 日付も範囲も相手が決める。絞り込みが要る |
上の2つは期限の話で、やることは決まっています。手が足りないのは下の3つです。どれも期限がなく、いつ来るか分かりません。だから、人が覚えておく形では持ちこたえられず、システムで持つ意味があるのは下の3つになります。
検査は書面の総覧ではなく、一覧と対話で進む
検査と聞くと、事務所の書類を端から端まで見られる場面を思い浮かべるかもしれません。公開されている実施計画を読むと、少し違います。
滋賀県の立入検査実施計画には、点検調査について「原則として総覧的な書面確認は行わず、主として対話で進める」と書かれています。そのうえで、法人は事前に「自己チェックシート」と「備置き書類一覧」を提出する運用になっています。内閣府が作った「点検調査の実施について」という資料では、このシートと一覧をおおむね1か月前に送り、1週間前までに回答を求める、という進め方が示されています。当日の相談事項も一緒に書けるようになっています。
何が見られるのかは、検査要領の様式からも読み取れます。鳥取県が令和8年4月1日から施行する公益信託の検査実施要領では、準備書類として現年度と過去2年分を次のように並べています(公益信託の要領ですが、並べ方の形は近いものです)。
- 定款、諸規程、許可・認可等の書類
- 役員名簿、役員等の就退任に関する書類(就任承諾書、履歴書、辞任届出等)
- 理事会、総会又は評議員会等の議事録
- 事業関係書類(計画書、パンフレット等)
- 財務諸表、伝票、会計帳簿(仕訳帳、総勘定元帳等)及び証拠書類
- 預金通帳、小切手帳、定期預金・有価証券証書
- 定期報告及び届出関係書類(登記に関する書類等)
ここから分かるのは、システムに求められているのが「全部を画面で見せる機能」ではないということです。必要なのは、この年度のこれは、ここにある、と一覧で言い切れる状態です。現物は紙のファイルのままでかまいません。システムが持つのは、書類の名前と、作成した日と、置き場所の3つでよく、それが揃っていれば備置き書類一覧は探す作業ではなく印刷する作業になります。
「全部をデータにしてから」と考えると、だいたい途中で止まります。先に作るのは目録のほうです。目録があれば、あとから現物をデータに移すときも、どこから手を付けるかが決まります。
回数と間隔で見られる項目は、数える仕組みを先に作る
同じ内閣府の資料には「主な指摘事項に関するチェックリスト」があり、指摘の中身が項目ごとに分かれて書かれています。読んでいくと、人の判断ではなく数えれば分かるものが混ざっています。そこだけ取り出すと、こうなります。
| チェックリストの項目 | 数えているもの | データの持ち方 |
|---|---|---|
| 議事録の不備「業務執行報告の未記載」 | 報告があった回 | 理事会の回ごとに、誰がどの件を報告したかを1行で持つ |
| 議事録の不備「個別決議の未記載」 | 決議の件数 | 議案を1件1行で持ち、議事録と同じ件数になることを確かめる |
| 議事録の不備「議事録作成者氏名の記載漏れ」 | 作成者 | 作成者の欄を空のまま保存できないようにする |
| 理事等の理事会での業務報告なし「必要回数を満たしていない」 | 年度内の回数 | 年度単位で報告の回数を数える |
| 同「代読・一括報告している」 | 報告した人と報告のしかた | 報告者ごとに1行。まとめて1行にしない |
| 社員総会・評議員会の招集決議等の不備「開催間隔(中2週間以上開けていない)」 | 2つの日付の差 | 招集を決議した日と開催日を、別の項目として持つ |
| その他「役員等の欠格事由関連(履歴書、確認書、保管期限等)」 | 保管の期限 | 書類ごとに受け取った日を持ち、期限は日付から出す |
この表で大事なのは、右の列がどれも地味だということです。新しい画面を作る話ではなく、1行にまとめていたものを分けて持つ、という話が続きます。
とくに「代読・一括報告している」が指摘として挙がっている点は、そのまま仕様の指示になります。報告を1件にまとめて記録していると、あとから誰が何を報告したのか分けられません。報告者ごとに1行で持つ、と決めておけば、年度末に数えるだけで足ります。
開催間隔のように2つの日付の差で見られる項目も、人が数えると間違えます。招集を決議した日と開催日を別々に持っておけば、間隔は計算で出ます。
なお、理事会や総会の資料そのものを作る手間については、協会・団体の理事会・総会の資料づくりを軽くする方法に書きました。この記事では、資料のもとになる記録の持ち方に話を絞ります。
名簿は「出すと公表される」前提で持つ
認定法第22条第2項では、提出を受けた書類について行政庁が「公表するものとする」と定められています。山梨県のページでは、役員等名簿・社員名簿は個人の住所に係る部分を除いて公表されること、そして公益法人informationのサイトからオンラインで閲覧・謄写ができ、窓口と同じ情報が得られることが案内されています。福岡県の留意点にも、提出後に公表の対象となる書類があること、事業報告を含む財産目録等に個人情報を記載する場合には本人の了解を得るなど、という書き方があります。
ここから出てくる仕様は1つです。名簿は、外に出す列と出さない列を分けて持つ。
分けていない名簿は、よく見かけます。住所と建物名と電話番号が1つの欄にまとめて入っていたり、備考欄に事務局の申し送りが書かれていたりします。この形のまま持っていると、住所に係る部分だけを除いて出すことができません。結果として、出すたびに人が1件ずつ消す作業が発生します。件数が増えるほど、消し忘れが混ざります。
pegが日本眼科医会の会員管理システムを作り直したときにも、名簿を外に出す場面で困っていたことがありました。会員が勤務先を変えると所属の支部も変わるため、前の支部の名簿から外して新しい支部に足す作業を事務局が手でやっていて、年度をまたぐと両方に載ったままになることがありました。名簿を外に出す場面では、この二重掲載がそのまま出てしまいます。改姓についても、以前のシステムには扱う仕組みがなく事務局の手作業になっていましたが、pegのシステムで自動化し、はがきなど関連する帳票にも姓の変更が連動するようにしました。
会員の状態そのものをどう持つか(所属・改姓・休会・退会を期間で持つ考え方)は、会員の異動を名簿の1行を上書きせずに持つ方法に書いています。
いまのやり方に足すこと、5つ
ここまでを、着手できる順に並べます。上から2つだけでも、備置き書類一覧の提出のしかたが変わります。
- 年度と書類の対応表を1枚作る。縦に書類の名前、横に年度。これが備置き書類一覧の下敷きになる
- 書類ごとに「作成した日」と「置き場所」を持つ。現物は紙のファイルのままでよい
- 理事会・総会は、回ごとに1行、そのうえで報告者ごとに1行。議案も1件1行
- 招集を決議した日と開催日を、別の項目として持つ。間隔は計算で出す
- 名簿は、外に出す列と出さない列を分ける。住所は1つの文字列にまとめない
全部を一度にやる必要はありません。1と2だけでも、検査の通知が来てから一覧を揃える作業が、探す作業から印刷する作業に変わります。3以降は、次の理事会から記録のしかたを変えれば、1年で揃います。
どこまでをシステムに寄せるかは、事務局の人数と、いま使っている道具で変わります。法令に合わせてどこまで手を入れるかという切り分けの考え方は、電子帳簿保存法に合わせて社内システムをどこまで直すかにも書きました。
よくあるご質問
事業報告はいまもExcelで作っています。システムに移さないといけませんか。
提出する書類の作り方を変える必要はありません。この記事で挙げているのは、提出したあとに聞かれる部分です。Excelのままでも、書類の作成日と置き場所の一覧があれば足りることが多く、まずそこから作るのをおすすめしています。
議事録は紙で保管しています。これをすべてスキャンする必要がありますか。
公開されている検査要領を見ると、準備するのは書類そのものです。紙のままで差し支えありません。システム側に持つとよいのは、どの回の議事録がどのファイルにあるか、作成者は誰か、という目録の部分です。スキャンは、必要になった年度から順に進めれば間に合います。
検査の日に何を見られるのか、事前に分かりますか。
公開されている資料では、点検調査にあたって自己チェックシートと備置き書類一覧がおおむね1か月前に送られ、1週間前までに回答を求める進め方が示されています。当日の相談事項を書く欄もあります。所管する行政庁によって運用は違いますので、ご自身の法人に届いた通知の内容で確かめてください。
名簿を外に出すときに、どこまで消せばよいのでしょうか。
何を除くかは制度と運用で決まっており、この記事で判断をお示しすることはできません。システムの側で用意できるのは、除く判断がついたときにその通りに出せる形にしておくことです。住所や連絡先を1つの欄にまとめず、項目を分けて持っておくと、あとから列を選ぶだけで済みます。
事務局が1人しかおらず、相談の時間が取れません。
いま使っているExcelや名簿のファイルを、そのままお見せいただくところから始められます。仕様書をご用意いただく必要はありません。お話を伺いながら、どこまでをシステムに寄せると楽になるかを先にお返しします。
あわせて読みたい
補助金の実績報告に耐える、経費と証拠書類の残し方|支出1件を、あとから突き合わせられる形にする
委託先として、発注元の監督にどう答えるか|名簿を預かる側が、従事者の届け出や消去の証明のために先に用意しておく記録。
指定管理者の報告業務をシステムに寄せる|月次・年次・随時を、同じ記録から出す
協会・団体の理事会・総会の資料づくりを軽くする方法|毎回の数えなおしをなくす進め方
会員の異動を名簿の1行を上書きせずに持つ方法|所属・改姓・休会・退会の持ち方
電子帳簿保存法に合わせて社内システムをどこまで直すか|直さなくてよい部分を切り分ける
まずは話すところから
社内に分かる人がいない状態でも、手元にある材料から整理できます。何から話せばよいか決まっていなくてもかまいません。ご相談は無料です。
